【2025年6月施行】熱中症対策義務化|企業に必要な手順を産業医が解説
- 産業保健
【2025年6月施行】熱中症対策義務化|企業に必要な手順を産業医が解説
- 【この記事のポイント】
-
- ● 2025年6月施行の改正規則により、WBGT28度以上等の作業環境で「報告体制の整備」「措置手順の作成・周知」が罰則付きの義務となった。
- ● 違反時は6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金、加えて安全配慮義務違反による損害賠償リスクがある。
- ● 企業に必要な実務対応は「報告体制の整備」「アクティブ・クーリングを含む措置手順」「労働衛生教育」の3つ。
- ● WBGT測定では着衣補正値の加算と、暑熱順化の有無別基準値の使い分けが必要。
- ● 業種別(建設・製造・物流)に応じた現場固有の論点を踏まえた設計が不可欠。
- ● 高年齢労働者・基礎疾患保有者・新規入職者・混在作業現場には、産業医による個別判断が役立つ。
- ● 形骸化を防ぐKPI先行指標(WBGT実測実施率・体調チェック提出率など)の運用が推奨される。
厚生労働省の確定値(2026年5月公表)によると、2025年の職場熱中症による休業4日以上の死傷者数は1,803人と過去最多を記録しました。職場の熱中症による死傷者が増加し続けたことを受け、2025年6月より企業の熱中症対策が罰則付きで義務化されています。
義務化の要点は「WBGT28度以上で報告体制の整備と措置手順の作成・周知」です。しかし、産業医として事業場を訪問していると、制度の文言を社内マニュアルに転記するだけでは現場の熱中症は防げない場面が頻発しています。
自覚症状の出にくい初期段階や基礎疾患のある人への対応、混在作業の責任所在など、医学的判断と現場運用が問われる点が多数残されているためです。
本記事では、熱中症対策の義務化で企業に課された義務や対象作業の判定基準、年間スケジュール、WBGT測定と暑熱順化の実務、業種別の取り組み事例、産業医起用による実効性確保まで、産業保健の現場視点で解説します。
本文中には罰則早見・WBGT基準値早見・KPI先行指標といった、自社の現状を客観的に評価できる材料を盛り込みました。罰則の回避だけでなく、安全配慮義務違反による損害賠償リスクを防ぐ実務知識として活用してみてください。
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企業の熱中症対策義務化とは|2025年6月施行の改正労働安全衛生規則

企業の熱中症対策義務化とは、2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則第612条の2にもとづき、WBGT28度以上等の作業環境における「報告体制の整備」と「症状悪化を防ぐ措置手順の作成・周知」を罰則付きで法的に義務付けた制度です。従来の努力義務から、違反時に刑事罰が科される規定へと改正されました。
法改正の背景には、地球温暖化に伴う作業環境の悪化と、熱中症による死傷災害の深刻化があります。従来の啓発活動や行政指針では現場の労働災害を防止できないという判断のもと、罰則を伴う制度設計が選択されました。
義務の対象は屋外作業に限らず、空調設備が不十分な工場・倉庫・厨房といった屋内環境も含まれます。
企業における熱中症対策の義務化について、改正の背景と対象状況、罰則について詳しく解説します。
改正の背景|2025年の死傷者数は過去最多1,803人
厚生労働省の確定値(2026年5月公表)によると、2025年(令和7年)の職場における熱中症による休業4日以上の死傷者数は1,803人にのぼり、統計開始以降で過去最多を記録しました。

出典:厚生労働省「2025 年(令和7年)職場における熱中症による死傷災害の発生状況(確定値) 」を編集して作成
死亡者数は19人と前年(31人)より減少しているものの、死傷者総数は前年比約4割増という深刻な水準です。死亡者数の抑制傾向の背景には、2025年6月施行の報告体制義務化により、初期症状段階での早期発見・介入が機能し始めた可能性が示唆されます。
実際の現場では、軽症の段階で本人や同僚から報告が上がり、休憩・冷却・受診へとつなぐ流れが定着しつつある事業場が増えています。
一方で、報告体制の整備が形だけになっていた事業場が労働基準監督署から是正勧告を受けたケースもあり、運用実態の差が結果に表れています。
参考:厚生労働省「令和7年『職場における熱中症による死傷災害の発生状況』(確定値)を公表します」
対象となる作業環境の条件(WBGT・気温・作業時間)
義務化の対象となる作業は、以下の4つのポイントで定められています。
▼義務化対象の判定基準
- ● 環境条件:WBGT28度以上、または気温31度以上
- ● 作業時間:継続1時間以上、または1日合計4時間超
- ● 場所:屋外・屋内を問わない(空調不十分な屋内も対象)
- ● 対象者:正社員・パート・派遣・スポットワーカーを含む全従事者
WBGT(湿球黒球温度)は気温・湿度・輻射熱を統合した暑さ指数であり、単純な気温よりも熱中症リスクを正確に反映する指標です。
屋外の建設現場や農作業だけでなく、空調が効きにくい製造ラインや金属加工場、物流倉庫、厨房、清掃作業など、屋内の高温作業も広く対象に入ります。
雇用形態は問わず、正社員・パート・派遣・スポットワーカーを含むすべての作業従事者が保護対象です。
違反時の罰則と安全配慮義務違反による損害賠償リスク
義務違反時には、法律にもとづく刑事罰と行政処分、民事責任が課せられます。
▼想定される企業へのリスク
- ● 刑事罰:6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金(労働安全衛生法第119条)
- ● 行政処分:労働基準監督署による是正勧告、作業停止命令
- ● 民事責任:安全配慮義務違反による損害賠償(数千万円〜1億円規模の判例)
刑事罰として、労働安全衛生法第22条第2号違反、同法第119条第1号として罰則6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。さらに労働基準監督署からの是正勧告や作業停止命令といった行政処分も想定されます。
刑事罰以上に経営インパクトが大きいのは、民事上の安全配慮義務違反リスクです。労働契約法第5条にもとづき、企業は労働者の生命・身体の安全を確保する義務を負います。
万が一従業員が熱中症で死亡した場合、対策の不備が認定されれば数千万円から1億円規模の損害賠償が認容された判例も存在します。
法令の罰則対応と並行して、実質的に機能する管理体制を運用することが必要不可欠です。
安全配慮義務の基本的な考え方や違反時に問われる責任の範囲については、こちらの記事もあわせて参考になります。
▼関連記事はコチラ
熱中症対策義務化で企業に必要な3つの実務対応

厚生労働省ガイドラインでは「作業環境管理・作業管理・健康管理・労働衛生教育」などをリスクに応じて実施することを求めています。
本記事ではこれらを実務的なフローとして整理した「報告体制の整備」「症状悪化を防ぐ措置手順の作成と周知」「労働衛生教育の実施」の3つの手順として解説します。
▼まず着手すべき3つの流れ
- ● 対象判定:自社現場のWBGT実測を行い、義務化対象作業に該当するかを確認
- ● 報告体制構築:バディ制・体調チェックシートの導入で初期症状の早期発見体制を整備
- ● 措置手順決定:重症度別の応急処置と救急搬送判断を明文化して掲示
形骸化を防ぐには、産業医関与によるKPIモニタリングと、現場リーダーへの権限委譲が役立ちます。3つの対応は単独では機能せず、連動して初めて初期発見から重症化防止までの一貫した安全網が成立します。
条文の文言を社内ルールにコピーするだけでは現場で動かないため、自社の業態・人員構成に合わせた具体化が必要です。
熱中症対策の義務化で企業に必要な3つの実務対応を詳しく解説します。
対応①:初期症状を見逃さない報告体制の整備
報告体制の整備とは、作業従事者が体調異変を自覚した瞬間、または同僚が異変を察知した瞬間に、現場責任者へ確実に情報が届く仕組みを構築することです。「誰に」「どの手段で」「何分以内に」報告するかを明文化し、全員に周知します。
体制を効果的にするポイントは、本人の自己申告だけに頼らない設計です。熱中症は脳血流の低下により判断力が鈍るため、本人が「まだ大丈夫」と捉えている段階で既に重症化が進んでいる場合もあります。
現場の実務では、2人1組の「バディ制」を導入し、朝礼時および作業中に相互の健康状態を評価する仕組みが効果的です。具体的には、始業前に以下の「作業前体調チェックシート」を提出させ、バディ間でダブルチェックを行います。
▼作業前体調チェックの必須4項目
- ● 睡眠時間:6時間以上確保できているか(寝不足は体温調節機能を低下させる)
- ● 前日の飲酒:深酒をしていないか(アルコールの利尿作用による脱水リスク)
- ● 朝食の摂取:欠かさずに食べたか(塩分・水分・エネルギーの補給不足)
- ● 当日の自覚症状:頭痛、めまい、倦怠感、筋肉の張りがないか
また、報告のハードルを意図的に下げることが推奨されます。「軽い違和感でも報告してよい」とルール化し、報告者が不利益を被らない心理的安全性を担保することで、初期段階で対処しやすくなります。
対応②:症状悪化を防ぐ措置手順の作成と周知(アクティブ・クーリング)
措置手順の作成とは、熱中症の疑いが報告された際の「誰が」「何を」「どの順番で」実施するかを具体的に定めたマニュアルを作ることです。「涼しい場所で休ませる」といった抽象的な記述では現場で機能しないため、医学的に妥当な処置を明記する必要があります。
医学的に妥当な処置として、参考になるのは「熱中症の重症度に応じた対応」です。日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」では、熱中症の重症度を以下の4段階に分類し、重症度に応じた対応を求めています。
▼熱中症の重症度分類と対応の原則
| 重症度 | 主な症状 | 対応 |
| Ⅰ度(軽症) | めまい、立ちくらみ、生あくび、大量発汗、こむら返り | 現場で対応可。涼所での休憩と水分・電解質補給 |
| Ⅱ度(中等症) | 頭痛、嘔吐、倦怠感、虚脱感、集中力低下 | 現場で対応開始。改善しない場合は医療機関受診 |
| Ⅲ度(重症) | 意識障害、痙攣、肝・腎障害 | 即座に救急搬送(119番通報) |
| Ⅳ度(最重症) | 深部体温40℃以上、深い意識障害 | 即座に救急搬送(119番通報) |
以下に、重症度別の対応手順をまとめましたので参考にしてみてください。
Ⅰ〜Ⅱ度(軽症〜中等症)への現場対応
軽症〜中等症の段階では、ガイドラインで「パッシブ・クーリング(涼しい部屋での休憩)と水分・電解質補給で症状が軽快しうる」とされています。現場で実施すべきは以下の応急処置です。
- ● 涼所への退避:エアコンの効いた室内・日陰・休憩所へ移動させる
- ● 衣服を緩める:締め付けを解き、放熱を促す
- ● 体表冷却:首・脇の下・鼠径部(足の付け根)に氷嚢や保冷剤を当てる、皮膚を水で濡らして扇風機の風を当てる
- ● 水分・電解質補給:意識が清明であれば、経口補水液やスポーツドリンクを自力で飲ませる
- ● 継続観察:症状の改善・悪化を15〜30分単位で評価し、改善しない場合は医療機関受診を判断
Ⅲ度以上の重症兆候があれば即座に救急搬送
以下のいずれかに該当する場合は、現場対応を続けずに即座に119番通報します。
▼救急搬送が必要な重症兆候
- ● 意識がもうろうとしている、呼びかけへの反応が鈍い
- ● 痙攣(けいれん)が起きている
- ● 自力で水分が飲めない、嘔吐を繰り返す
- ● 体温が高く皮膚に明らかな熱感がある(表面体温40℃以上)
- ● 応急処置を15〜30分続けても症状が改善しない
ガイドラインでは、深部体温40℃以上かつ意識障害(GCS≦8)を「Ⅳ度(最重症)」と定義し、本格的なアクティブ・クーリング(冷水浸水・蒸散冷却・血管内体温管理療法など)を含めた治療を医療機関で早急に実施することが推奨されています。
これらは医療機関での専門的治療手技であり、職場で実施するものではありません。そのため、重度の熱中症が疑われる場合は、即座に救急要請が必要です。
救急搬送までの応急処置の実施手順
救急車の到着までの時間(平均約10分)は、現場での体表冷却と水分補給を継続します。
▼救急搬送までの応急処置手順
- ● 対象者を絶対に1人にしない(容態急変に備え、最低2名で対応)
- ● 衣服を緩め、皮膚を水で濡らし、扇風機やうちわで風を当てる
- ● 首・脇・鼠径部に氷嚢を当てる(直接皮膚に長時間当てない、タオルなどを介する)
- ● 意識があり自力で飲める場合のみ、経口補水液を少量ずつ飲ませる(※意識がない、痙攣している場合は飲ませない)
- ● 救急隊到着時に「いつ・どのような症状で・何分経過か・実施した応急処置」を簡潔に伝える
ここまで解説した熱中症疑いの社員が報告された場合の対応手順をまとめると以下のようになります。
▼措置手順に必ず明記すべき5項目
- ● 報告受領後の初動責任者(職長・班長レベル)
- ● 退避場所と冷却資材の保管場所
- ● アクティブ・クーリングの具体手順(体外冷却+体内冷却)
- ● 119番通報の判断基準(意識障害・痙攣・けいれん・呼名反応低下)
- ● 救急車到着までの付き添い体制と連絡先一覧(救急医療機関、産業医、本人家族)
参考:一般社団法人日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」
対応③:労働衛生教育と熱中症予防管理者の選任
労働衛生教育は、義務化された報告体制と措置手順を全従業員に行動レベルまで落とし込むための取り組みです。本格的な暑さを迎える前の4〜5月に集中実施し、夏季は朝礼などで繰り返し短時間の確認を行う運用が定着につながります。
教育内容には、以下のテーマを盛り込みます。
- ● 熱中症発症のメカニズム
- ● 初期症状の自覚と他覚的徴候
- ● 水分・塩分摂取の具体的方法
- ● 緊急時の連絡フロー
- ● WBGTの読み方
一度の長時間講義よりも、5〜10分程度の反復学習が記憶定着に役立ちます。
熱中症予防管理者は、WBGT測定や巡視、報告対応の責任者として選任される現場リーダーです。法的な選任義務はありませんが、厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン 」などにおいて、現場の対策を担う担当者としての配置が推奨されています。
50人未満の事業場では安全衛生推進者や職長が兼任する形が一般的ですが、産業医による教育を受けることで判断の質が上がります。
現場で機能させるWBGT測定と暑熱順化の管理手順

現場で熱中症対策を実効化するには、WBGTを正確に実測し、着衣補正値を加算した上で作業強度・暑熱順化の有無別の基準値と照らし合わせる手順が必要です。
新規入職者・休暇明け従業員は「非暑熱順化者」として通常より慎重な基準を適用します。
また、天気予報の地域気温に依存した管理では、現場の実態と数度のずれが生じる場合があります。実測と医学的判断を組み合わせることが、現場運用の質を分けるポイントです。
以下では、WBGTの正しい測定方法や暑熱順化の特徴、注意が必要な従業員の個別管理のポイントを解説します。
WBGT測定の正しい方法(JIS規格器・着衣補正値)
WBGT測定は、JIS規格(JIS B 7922またはJIS Z 8504)に適合した黒球付き測定器を、作業員が実際に稼働する位置に設置して行います。気温が上昇する11時から14時を含む複数時刻で実測し、記録を保管することが望ましい運用です。
測定したWBGT値を以下の作業強度別WBGT基準値と照らし合わせて、適切かを判断します。
▼作業強度別WBGT基準値の目安
| 区分 | 身体作業強度(代謝率レベル)の例 | WBGT基準値熱に順化している人(℃) | WBGT基準値熱に順化していない人(℃) |
| 0安静 | 安静、楽な座位 | 33 | 32 |
| 1低代謝率 | 軽い手作業、立位ドリル、2.5km/h以下の歩行 | 30 | 29 |
| 2中程度代謝率 | くぎ打ち、トラクター運転、2.5〜5.5km/hの歩行、鍛造 | 28 | 26 |
| 3高代謝率 | 重量物運搬、ショベル作業、5.5〜7km/hの歩行 | 26 | 23 |
| 4極高代謝率 | 激しいシャベル作業、階段昇り、7km/h以上の歩行 | 25 | 20 |
注1 日本産業規格 JIS Z 8504(熱環境の人間工学-WBGT(湿球黒球温度)指数に基づく 作業者の熱ストレスの評価-暑熱環境)附属書 A「WBGT 熱ストレス指数の基準値」を 基に、同表に示す代謝率レベルを具体的な例に置き換えて作成したもの。
注2 暑熱順化者とは、「評価期間の少なくとも1週間以前から同様の全労働期間、高温 作業条件(又は類似若しくはそれ以上の極端な条件)にばく露された人」をいう。
出典:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」
また、実測値をそのまま使うのではなく、作業服の素材に応じた補正値を加算します。例えば不透湿素材の化学防護服を着用する作業では、WBGT実測値に10度程度を加算して評価するため、見かけの環境より体感リスクは大幅に高くなります。
空調服やファン付き作業服を着用する場合は補正値が小さくなるなど、装備に応じた管理が必要です。
▼衣服の組み合わせによりWBGT値に加えるべき補正値(℃-WBGT)
| 衣服の種類 | WBGT値に加えるべき補正値(℃-WBGT) |
| 作業服(織物製作業服、基準となる組合せ) | 0 |
| つなぎ服(表面加工された綿を含む織物製) | 0 |
| 単層のポリオレフィン不織布製つなぎ服 | 2 |
| 単層のSMS不織布製のつなぎ服 | 0 |
| 織物の衣服を二重に着用した場合 | 3 |
| つなぎ服の上に長袖ロング丈の不透湿性エプロンを着用した場合 | 4 |
| フードなしの単層の不透湿つなぎ服 | 10 |
| フードつき単層の不透湿つなぎ服 | 11 |
| 服の上に着たフードなし不透湿性のつなぎ服 | 12 |
| フード(フードなしの組合せ着衣の着衣補正値に加算) | +1 |
注記1 透湿抵抗が高い衣服では、相対湿度に依存する。着衣補正値は起こりうる最 も高い値を示す。
注記2 SMS はスパンボンド-メルトブローン-スパンボンドの3層構造からなる不織 布である。
注記3 ポリオレフィンは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ならびにその共重合 体などの総称である。
出典:厚生労働省「労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行等について」
算出した実効WBGT値が基準を超える場合は、作業時間短縮・休憩頻度増加・作業中止のいずれかを判断します。
暑熱順化の科学|休暇明け4日で喪失開始
暑熱順化(しょねつじゅんか)は、繰り返し高温環境に曝されることで暑さに身体が適応する現象です。自律神経系が適応し、発汗の早期化・汗中の塩分濃度低下・循環血漿量の増加といった生体防御反応が獲得されます。
ただ注意したいのは、熱曝露が中断した場合の喪失スピードです。
▼暑熱順化の形成から喪失までの流れ
- ● 形成期:段階的な熱曝露を7日以上継続することで自律神経が適応
- ● 喪失開始:熱曝露が中断してから4日後にはピーク順化能力が失われ始める
- ● 完全喪失:3〜4週間の中断で順化はリセットされる
ゴールデンウィークや夏季休暇、長期療養などの休暇により、暑熱順化がリセットされてしまう可能性があります。実際の現場でも、連休明け初日に発症する熱中症事例が毎年報告されています。
対策として、新規入職者・休暇明け従業員・スポットワーカーは一律「非暑熱順化者」として扱うとよいでしょう。作業強度に応じて1〜5度低い(重作業ほど差が大きい)WBGT基準値を適用し、最初の数日は作業時間を半日に制限することが推奨されます。
参考:気候変動適応情報プラットフォーム(A-PLAT)「記録的猛暑の時代を生き抜く!熱中症から身を守る“暑熱順化”のすすめ」
高年齢労働者・基礎疾患保有者の個別管理
50歳以上の高年齢労働者は、皮膚の温度センサー感度の低下や体液量の減少、心機能の低下により、体温調節能力が若年層より低い傾向があります。厚生労働省の統計(2021年~2025年)でも、熱中症による死亡者の64.8%が50歳以上です。
さらに、基礎疾患による熱中症リスクも見逃せない点です。注意が必要なのは、以下の3つの疾患や内服薬です。
- ● 糖尿病:多尿により慢性的脱水を招きやすい
- ● 高血圧や心疾患の治療薬(利尿薬):体液喪失を加速させて脱水に陥りやすくなる
- ● 精神・神経疾患の治療薬:抗コリン作用により発汗そのものを抑制し、体内に熱を溜め込みやすくなる
産業医として事業場を訪問していると、健康診断結果にもとづく就業判定が形式化しているケースを見かけます。
労働安全衛生法第66条の4・5にもとづき、産業医・主治医の意見を聴取した上で、屋内軽作業への配置転換・労働時間短縮・夜勤免除といった個別措置を取ることが、企業の安全配慮義務を実質的に果たす道筋となります。
業種別の熱中症対策|建設業・製造業・物流業の対応ポイント

業種ごとに熱中症リスクの構造は異なり、業種特性に応じた対策の設計が必要です。建設業では混在作業と暑熱順化、製造業では屋内高温源と防護服、物流業ではスポットワーカーと積込時のピーク負荷が、それぞれ最優先の熱中症対策となります。
あわせて、複数事業者が混在する現場では元請け・下請け全社に措置義務が及ぶ点も押さえておきましょう。
業種に合わせた熱中症対策を行うことで、実効性が大きく変わります。
以下に各業種で押さえるべきポイントと、混在現場の責任構造を整理します。
建設業|混在作業と統括安全衛生責任者の役割
建設業は熱中症死亡者数で最も多くを占める業種です(2021〜2025年累計では死亡者131人のうち52人で約40%)。 元請けと多数の下請けが混在する現場構造のため、統括安全衛生責任者が全現場のWBGT測定・休憩設備・連絡網を一元管理する体制が役立ちます。
屋外直射日光下では実効WBGTが急上昇するため、午前11時から午後3時の作業中止時間帯設定も検討されます。
▼建設業の企業取り組み事例(厚生労働省「熱中症対策事例紹介」より)
- ● WBGT値の測定と現場掲示を徹底し、数値が高い場合は水分・塩分の摂取を30分〜1時間ごとに促進、職長が摂取状況を記録
- ● 炎天下での作業中止WBGT基準値を事前に定め、作業計画に反映
- ● ミストファン・スポットクーラー・パラソルなどの物理的暑熱環境改善策を導入
- ● 休憩所が確保できない現場では作業車を一時的な休憩所として活用
参考:厚生労働省「令和7年『職場における熱中症による死傷災害の発生状況』(確定値)を公表します」
製造業|屋内高温源と防護服の着衣補正
製造業では、溶鉱炉・ボイラー・乾燥炉といった屋内高温源が常時存在することが特徴です。空調が効きにくいうえに、防護服の着用が必須となるため、WBGT基準値は外気温より高くなる傾向があります。
屋内ファン・スポットクーラー・気化式冷風機の併用と、防護服対応の着衣補正値設定が必要です。
▼製造業の企業取り組み事例(厚生労働省「熱中症対策事例紹介」より)
- ● 鉄鋼・鋳造工場で熱源近くの作業者にファン付き作業服を全員支給
- ● 高温作業エリアごとにWBGT測定器を固定設置し、リアルタイムで現場掲示
- ● 作業強度別の作業時間ローテーションを導入(高負荷作業は30分作業10分休憩など)
- ● 食品加工業では冷凍保管室と常温作業場の温度差負荷を考慮した動線設計
物流業|スポットワーカーと積込時のピーク負荷
物流業ではスポット雇用比率が高く、暑熱順化未形成の作業員が当日いきなり荷積み作業に従事するケースがあります。トラックバース・冷凍倉庫・常温倉庫を行き来する温度差負荷も体力を消耗させる要因です。
スポット採用時には暑熱順化未形成を前提とした初日短時間勤務と、積込ピーク時間帯の2人体制を組み込むことが望ましい対応となります。
▼運輸業の実企業取り組み事例(厚生労働省「熱中症対策事例紹介」より)
- ● 船内・コンテナ内作業者にファン付き作業服を支給し、水分・塩分の摂取を定期化
- ● 全社員に熱中症リスク教育を実施し、対策意識を浸透
- ● 作業中は現場責任者が巡視し、作業者の顔色・行動を確認
- ● 安全掲示板を設置して熱中症に関する注意喚起を毎日更新
混在作業現場の責任構造|元請け・下請け全社に措置義務
建設現場やプラント製造のように複数事業者が混在する作業現場では、元請けと下請けすべての事業者に措置義務が課されます。
混在作業の指揮命令系統は、平時には明確でも、熱中症発症のような緊急局面では責任の所在があいまいになりがちです。元請けが統括安全衛生責任者を起点に主導することで、各社個別運用の隙間を埋められます。
実務的には、元請けが現場全体のWBGT測定・記録を担い、全関係請負人と共通のフォーマットで日次共有することが望ましい運用です。
あわせて、中小零細の下請け単独では用意が困難な大型休憩スペース・製氷機・シャワー設備・経口補水液の備蓄を元請け予算で整備し、企業規模を越えて共同利用する協定を結ぶケースが増えています。
▼元請け・下請けそれぞれの役割分担の例
- ● 元請け:WBGT測定・記録、共用休憩設備整備、緊急時統括連絡網、教育監修
- ● 下請け:自社作業員の体調管理、バディ制運用、報告の現場一次対応
- ● 共有事項:WBGT記録・体調異常情報・救急搬送先病院情報
緊急時の連絡網は、元請け・下請けの社員番号や所属企業に関係なく、現場にいる作業員全員に一律のルールで運用される必要があります。
「自社の社員ではないから判断できない」という空白を残さない設計が、命を守る現場管理の核となります。
熱中症対策の年間スケジュール|時期別に取り組むべき内容

熱中症対策は夏季のみの取り組みではなく、年間を通じた計画的運用が必要です。1月〜12月の時期別に取り組むべき内容を整理することで、予算組み・教育計画・人員配置の見通しが立ちやすくなります。
時期別に取り組むべき熱中症対策について、以下の表にまとめました。
| 時期 | 主な対応内容 |
| 1月〜3月 | ・前年の熱中症発生事例 ・対応の振り返り ・WBGT測定器の整備 ・点検(JIS規格適合確認) ・予算計画策定(冷却設備・ファン付き作業服・経口補水液等) ・産業医との年間方針すり合わせ |
| 4月〜5月 | ・WBGT測定の運用開始 ・熱中症対策マニュアル ・措置手順書の更新 ・全従業員向け労働衛生教育の実施 ・熱中症予防管理者の選任・教育 ・暑熱順化プログラムの計画策定 |
| 6月〜9月 | ・WBGT実測の本格運用(11時〜14時を含む複数回測定) ・体調不良者への即時対応とアクティブ・クーリング実施 ・現場巡視とリスク評価の強化 ・新規入職者・休暇明け従業員への暑熱順化プログラム実施 ・産業医による職場巡視の月次実施 |
| 10月〜12月 | ・年間対応の振り返り ・KPI評価・救急搬送 ・ヒヤリハット事例の分析 ・教育・啓発コンテンツの更新 ・労働基準監督署への報告(必要な場合) ・翌年度予算策定のための課題整理 |
年間スケジュールの運用上のポイントは、暑さの本格化前である4月〜5月の準備期間に時間を割くことです。教育と暑熱順化プログラムの計画的実施が、6月以降の発症抑制に直結します。
熱中症対策の実効性を産業医・労働衛生専門家で担保する

法令の文言を社内ルールに転記しただけでは、現場の熱中症は防げません。産業医による職場巡視・就業制限判断・教育監修を組み合わせることで、医学的妥当性と現場運用の整合性を担保できます。
人事労務担当者や現場管理者だけで医学的判断を伴う対応を完結させるには、専門知識の隔たりが大きすぎる場面が出てきます。
基礎疾患保有者の就業判定、暑熱順化プログラムの設計、緊急時の指導など、医師資格と産業保健の経験が問われる領域は産業医に委ねる体制が効率的です。
産業医が果たす役割(巡視・就業制限判断・教育監修)
産業医は、月1回の職場巡視(労働安全衛生規則第15条)を通じて、WBGT測定の運用実態、休憩スペースの環境、報告体制の機能度を客観的に評価します。書面のチェックでは見えない現場のリアルを医学的視点で診断する役割です。
加えて、健康診断結果や本人の申告にもとづく就業判定では、糖尿病・高血圧・心疾患・精神疾患等の保有者に対する個別措置を産業医意見書として発行します。労働者を高温環境から外す配置転換や、勤務時間調整の判断は、産業医意見を根拠とすることで法的にも医学的にも妥当性が担保されます。
労働衛生教育の内容監修も産業医の役割の一つです。発症メカニズム・初期症状の見分け方・救急対応など医学知識を含む教材を、現場の理解レベルに合わせて言語化することで、教育の定着率が向上します。
職場巡視そのものの目的や法令上の頻度要件、チェックポイントについて改めて整理したい場合は、以下の記事もご覧ください。
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形骸化を防ぐKPI先行指標の設計
熱中症対策が形骸化していないかを客観評価するには、結果指標(救急搬送件数・ヒヤリハット件数)だけでなく、未然防止の機能度を測る先行指標を設定することが役立ちます。
先行指標は産業医と人事労務担当者が共同で設計し、安全衛生委員会で月次モニタリングする運用が推奨されます。
▼運用すべきKPI先行指標の例
- ● WBGT実測実施率:規定時間ごとの測定が漏れなく実施された割合
- ● 作業前体調チェック提出率:従業員の体調・睡眠・前日飲酒の自己申告提出率
- ● 労働衛生教育受講率:対象者全員に対する実施率
- ● 暑熱順化プログラム完了率:新規入職者・休暇明け従業員の段階的順化実施率
- ● 産業医職場巡視実施率:規定回数の巡視が予定通り実施された割合
これらの先行指標を可視化することで、結果指標が悪化する前に介入できる体制が構築されます。
中小企業(50人未満)でも産業医起用が有効な理由
労働安全衛生法では、常時50人以上の労働者を使用する事業場に産業医選任義務が課されます。一方、50人未満の事業場には選任義務はありませんが、熱中症対策の義務化は事業規模を問わず全企業に適用されるため、中小企業ほど産業医の知見が必要となる構造です。
50人未満の事業場でも、嘱託産業医契約や地域産業保健センター(産保センター)の活用、スポット契約による職場巡視・教育監修の依頼など、規模に応じた起用方法があります。コスト負担を抑えつつ、安全配慮義務の実質的履行を可能にする選択肢です。
特に建設業・製造業・物流業など熱中症発生リスクが高い業種では、規模に関わらず産業医を予防的に起用しておくことが、損害賠償リスクを抑える対応となります。
産業医の選任義務が課される事業場規模の基準や、選任後に労働基準監督署へ提出すべき手続きについては、以下の記事で詳しく解説しています。
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企業の熱中症対策に関してよくある質問

Q1.熱中症対策の義務化はいつから始まりましたか?
A.2025年6月1日に施行された改正労働安全衛生規則第612条の2により、企業の熱中症対策が罰則付きの法的義務となりました。従来の努力義務から、違反時に刑事罰(6ヶ月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金)が科される規定へと改正されています。
Q2. 自社が義務化の対象になるかどうか、どう判断すればよいですか?
A.判定基準は「WBGT値28度以上または気温31度以上の場所で、継続1時間以上または1日合計4時間超の作業を行うか」です。
地域気温の予報値ではなく、作業現場でのWBGT実測値で判定することが原則です。
Q3. 屋内作業も熱中症対策義務化の対象ですか?
A.はい、屋内作業も対象に含まれます。義務化の判定はWBGT値28度以上または気温31度以上といった環境基準と作業時間で決まるため、空調が不十分な工場・倉庫・厨房・金属加工場なども該当します。
屋内だから安心という前提で対策を省略すると、義務違反となるリスクがあります。
Q4. 50人未満の事業場でも報告体制の整備は必要ですか?
A.必要です。改正労働安全衛生規則の義務化は事業規模を問わず適用されます。産業医選任義務(50人以上)と熱中症対策義務化は別の制度であり、小規模事業場でも報告体制と措置手順の整備、労働衛生教育の実施が求められます。
地域産業保健センターや嘱託産業医のスポット起用で対応する方法も選択できます。
Q5. 下請け業者が混在する現場では誰が熱中症対策の責任を負いますか?
A.元請け・下請けを含むすべての事業者に措置義務が課されます。各事業者がそれぞれ個別に責任を問われる可能性があります。
元請けが統括安全衛生責任者を起点に共通の連絡網・WBGT測定・休憩設備を整備し、全関係請負人で共有運用することが必要です。
Q6. 暑熱順化はどれくらいの期間で形成されますか?
A.形成には7日以上の段階的な熱曝露が必要とされ、4日以上の中断で喪失が始まるとされています。
新規入職者・休暇明け従業員・スポットワーカーは一律「非順化者」として扱い、最初の数日は作業時間を短く・身体負荷を低くする暑熱順化プログラムの計画的実施が推奨されます。
Q7. WBGT測定器は必ず購入する必要がありますか?
A.JIS規格適合の黒球付き測定器を設置することが望ましい運用です。簡易型のハンディ測定器でも実測は可能ですが、作業位置・複数時刻での記録保管が必要となるため、固定設置型を併用するケースが増えています。
地域気温に依存した管理では、現場の実態と数度のずれが生じる場合があるため、実測が前提となります。
Q8. 健康診断結果から熱中症リスクの高い従業員を判別できますか?
A.産業医・主治医による医学的評価が必要です。血糖値・血圧・服薬状況・腎機能・心機能などの所見をもとに、糖尿病・高血圧・心疾患・精神疾患などの保有者に対する個別措置を産業医意見書として発行する流れになります。
健康診断結果の単純な数値だけで自社判断を行うことは推奨されません。
まとめ|熱中症対策の義務化は産業医連携で実効性を担保する
法令準拠だけでは安全配慮義務違反リスクは消えません。現場で機能する仕組みを構築し、命を守る運用へと落とし込むことが企業に求められています。とはいえ、自社単独で医学的判断や個別就業措置、業種固有のリスク評価まで担うのは難しい場面が多いはずです。
ワーカーズドクターズを運営するメディカルリソースでは、産業保健の知見を持つ産業医を、企業の業種・人員構成・リスク特性に合わせて紹介しています。熱中症対策に限らず、職場巡視・就業判定・労働衛生教育の監修まで一気通貫で対応可能な産業医を、貴社の現場に合った形で選任をサポートいたします。
安全配慮義務の実質的な履行とコンプライアンス対応の両立にお悩みの担当者様は、まずは情報収集の一環としてご相談ください。
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